チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

一人ぼっちの死

 

Mさんは29歳の黒人女性

2年前に 白血病と診断され、

ここ2か月前から急激に病状が悪化してホスピスケアを受け始められた

 

自分の病気は深刻なものだと伝えても、

兄弟たちは受け止めてくれず、

「気持ちの持ちようで何とかなるのだから」と言って

あまり、親身になってくれないという

 

実は結婚されているのだが

自分の病気が分かったとたん、夫は家出をしてしまい

そのままになってしまっている

 

これまでは 体調のいい時は食料品の買い物などに出かけたが

偶然に夫に出くわしたことがあるという

「元気なのに、病気だとが嘘をつきやがって!」と

お化粧をして出かけた彼女を見て、捨て台詞を吐かれたこともあった

 

お姉さんのアパートに間借りをして住んでいるが

お姉さんが仕事をしている間 

3人の小さい子供たちの世話をするように 期待されていて

誰も深刻に自分の病気を考えてくれないと

不満を言っていた

 

最近は、完全に左目が見えなくなり、右目はぼんやりとしか見えない

バランスも悪くなり、歩くのにも足元がおぼつかない様子だ

 

彼女はクリスチャンで、

「天国に行くとわかっているので、死は全然怖くないわ」と言い

2週間前に、母親の家で、自分の生前葬も行った

 

「みんながおいしい食事を持ち寄ってくれて、楽しかったし、

 涙や笑いがいっぱいで、とてもいい生前葬になった」と言っていた

 

そんなMさんは、その数日後、吐き気が止まらなくなり、

ホスピスの合意を得て、症状管理のために 入院された

 

病室に訪問させてもらうと、

「今朝は、吐き気で最悪の状態だったけど、今は落ち着いています」と

ベッドの上に座って、きれいに赤いマニュキュアを塗った手で

ブランド物のバッグから、スマホを取り出し、

なにやら調べ物をされていた

 

いかにも、若い女性の姿がそこにはあった

 

数日間、入院しているけれど、家族は誰も来てくれず

(コロナ感染対策で、一度に数人とかの見舞いは許可されていないが、

 2人までならできることになっている)

それどころか、自分がこんなに大変なのに、

兄弟たちは、電話で、どうでもいいような相談事を電話してくるという

(例えば、ショッピング中で、どっちの品物にしようか迷っているなど)

 

「もう、自分では薬の管理もできないし、アパートには戻れない。

 死ぬまでここにいさせてほしいと、ドクターに頼んであるの」

「ここで死ねると思うと、気持ちが楽になった~~~」

Mさんは屈託なく、笑顔で話した

 

「1週間後にまた来ますね」と約束してあったのに

その1週間が経つ前に、Mさんが病院で今朝息を引き取ったと

連絡が入った

 

家族にも親身になってもらえず、

一人で病気と闘っていたMさん

たった2度しか訪問できず、あまり力になってあげられることができなかった

 

患者さんを訪問するときは、

どんなにお元気そうに見えても、

これが最後の訪問になるかもしれないということを念頭に入れているが、

今回のMさんの死を通して、またしても そのことを思い知らされた

 

Mさんは今頃、すべての苦しみから解放され、天国に行き、

イエス様に迎えられて 圧倒されるような愛に包まれておられることだろう

 

 

散歩中の桜

 

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