チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

Fさんの息子ジミーさん

今日はFさんについて書こうと思う

Fさんは 92歳のフィリピン人女性
骨髄の病気で 余命宣告を受け、在宅ホスピスのケアを受けられた

彼女は20代そこそこで 戦争花嫁として 
かなり年上のフィリピン系アメリカ人男性と結婚するため、アメリカに来られた

美容師として自分のビジネスを持ち、
フルタイムで働きながら2人の息子を生み育てられた
ご主人と二人で協力して、家を3軒所有されていて 賃貸されたり
なかなかのやり手のようだ

彼女はとてもおしゃれでいつ訪問しても髪をきちんと整え、
頭に花をつけ、爪も派手目なマニキュアをされている

壁に飾れらた若いころの写真をみると、
まるで雑誌から飛び出したモデルのように美しい

Fさんは スポーツ観戦が好きで、
私が訪問すると いつもテニスや野球などの試合をテレビで楽しんでおられた

長男のフランクさんは 70歳、すでに退職して近所に住み、
毎日母親であるFさんの家のことなどせっせと作業されている

次男のジミーさんは65歳だが、まだ50歳そこそこにしか見えない若さ。
彼は、Fさんがホスピスに入られた5月から
上司から許可を受け、毎日午前だけ出勤し、お昼すぎになると
職場から自転車でさっそうと母親のもとに駆け付け、
母親とともに過ごしながら パソコンに向かって午後の仕事をやられていた

状態が安定していて、小康状態が長く続いておられたので
いつまでもそんな平穏な毎日が続くのかと思われた・・・

けれども、やはり病魔は徐々に彼女を弱らせていったのだった

ジミーさんは、いつも深刻な顔で、チャプレンである私と接し、
ビジネスマンさながら、まるで、レポートの報告でもするように
私に母親の状況を話したり、私の話を聞かれていた

アメリカのチャプレンはほとんどが聖職者であるために(私もその一人)
礼儀と距離感を保って 接される方が多い
時として、私にはその壁のようなものが 重く感じることもあるが、
ほとんどの場合は 時間とともに、より近しい関係を気付くことができる

そんなジミーさんは、いよいよFさんの弱っていく姿を前に、
ハラハラと涙を流して、
「もうすぐ別れがやってくると思うと、
 それに弱っていく母を見ていると 悲しくて、辛くて・・・・」
きりっとしている彼が、きりっとしながらも、涙を止めることができず、
「すみません」と何度も 謝る

きびきびとビジネス・ライクに私と接してこられた彼が 
鎧をはずし、素直に母との別れを悲しむ無防備な息子の姿となられた

「お母さんは 肉体的にはいなくなられるけれど、
 悲しみの後には きっと、これまでよりも 
 ずっとずっとお母さんを近く感じるようになるのだと思いますよ。」
と慰めの言葉をかけた

一度流し始めたら、もう涙が止まらない
ジミーさんは 男泣きに、しばらく泣いておられた
私は無理には言葉をかけず、無言の時間を大切に・・・

その後、どうしても彼のためにアドバイスして置きたいことがあった

 あなたは お母さんの最期を看取ろうと
 毎日半日以上 ここに来ておられるのだと思いますが
 私もあなたの希望の通りになればいいと願っています
 でも、もしかしたら最期に間に合わないかも知れません
 その時に、自分を責めないでほしいのです
 最期に間に合おうと、間に合わないだろうと、
 お母さんは 危篤の状態にあっても 
 あなたが毎日看病に来られていることを知っていて
 感謝しておられるのに変わりありません

 私は多くの患者さんの最期に立ち会って わかったのですが
 人は、みなそれぞれの希望があって
 愛する人に見守られながら最期を迎えたいという人や
 逆に、愛する人には最期を見せて悲しませたくないという人が
 あるということを

 家族がずっと危篤状態の患者さんのそばにいたのに、
 ほんの少しの間 部屋から出た間に
 そっと息を引き取りられるということがよくあるんです

 私は神様が、患者さんが一人で死にたいか 見守られて死にたいか
 希望を知っておられて 
 その希望を叶えてあげられるのではないのかなと思っているのです

私のアドバイスをジミーさんは真剣に聞かれていた

その二日後にFさんは 亡くなられた
ジミーさんは 母親の死に目に立ち会えなかったらしい

お悔やみの電話をかけた私に、
「母の死に目には間に合いませんでした
 でも、僕は『これでよかったんだ』と 自然に受け止めることができました
 最期にお会いした時に、僕の心を準備してくださって
 本当にありがとう。
 母の死を知った時、あなたの言葉がしっかりと僕の心を支えてくれました」

ジミーさんは泣き声で私に礼の言葉を述べてくださった

肉体的には離れ離れになった親子だけれど、
これからは もっともっとFさんのことを近く深く感じるように
なられるのではないかと思っている