チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

姉妹の和解


70代の女性患者Sさんは、がんの末期でホスピスケアを受けられることになった

Sさんは 親から受け継いだという小さく古い自宅でケアを受けられた
その家は シアトルの美しいピュージェット湾を望むところに立っている

Sさんの窓から見えるピュージェット湾はこんな感じ (インターネットより)

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結婚し、2人の娘をもうけた後、離婚されて以来
経済的に恵まれておられたSさんは、ボランティアをしながら
旅行などを楽しんで来られた

自由奔放な彼女は 病気の直前までドラッグにはまっておられたらしく、
痛み止めの薬がなかなか効かず、ガンからの痛みに苦しまれた。

最初は 医師も2週間ほどの余命だろうと予想していたのだが、
持ちなおされて、4か月間自宅で過ごすことができられた。

彼女の二人の娘、Aさん41歳と Kさん38歳は
詳しい事情は分からないものの、ここ数年顔を合わせないほど 仲が悪かった

最初のうちは妹のKさんが毎日のように母を介護し献身的だった

ところが、妹の性格を知る姉のAさんは 母親の死後、妹が土地財産を自由にすることを恐れ、法律家を雇って疑いをかけ、Kさんを締め出してしまった

仕事で介護できない姉のAさんは 24時間体制で2人の介護士を雇い、
私たちホスピスティームも Kさんとは連絡をとってはいけないし、
あちらから連絡があっても、姉Aさんの許可なしには 
Kさんにどんな情報も開示してはならないこととなった

そんな状態が2か月以上も続き、
姉妹絶縁のまま Sさんは 亡くなってしまうのだろうと思われた

いよいよ、Sさんが数日で亡くなるという状態に陥った時、
姉のAさんは、これではいけないと思われたのか、
妹のSさんを、「一緒に母のSさんを見送ってあげよう」と招き入れた

そこから二人は心から和解し、Sさんを囲んで 温かい家族の時を持つことができられた

その光景を喜ばれたのだろう、
意識不明のSさんは 会話もできない状態だったが、時々目を開けたりして意識をもどされて、2週間ほど生きられた 

絶縁状態だった娘たちを 母が和解させたのだろう
安心されたSさんは、和解の2週間後 静かに息を引き取られた

亡くなれる2日前に訪問した際、妹のKさんが
「母さんに、何度も 
 『お姉ちゃんと仲直りしたから 安心してね。わかった?』
 って言ってるんだけど、
 母さんの目はうつろで、わかってるかどうかわからない。」と
私に泣きながら 訴えられた。

「お母さんは、もう肉体的にはこれまでのようには反応できない状態だから
 おそらく口惜しいと思いをしておられると思うよ。
 でもきっと魂では、ちゃんと理解していて、心から喜んでおられると思うよ。
 やっと二人の娘が仲直りできたんだから。うれしいに決まっているわ。
 だから、安心して」

そういうと、Kさんは私を強くハグして
「そうだよね。わかってくれているんだよね。」
彼女はそう言って、泣きながら笑顔を見せてくれた。

「死んだら母の希望通りに、火葬して
 灰をハワイの海に散骨してあげるんだ」と言っていた。

Sさんは今頃はハワイの美しい青い海の砂となったのだろうか・・・