チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

体の自由を失う意味

 

Nさんは 70代の白人女性

脳腫瘍でホスピスケアーを受けられている

脳腫瘍が神経を圧迫し、全身麻痺で ベッドの上に座ることしかできない状態

手足もほとんど動かないし、食事も自分ではできない

 

けれども、彼女は頭脳明晰で、記憶力も抜群!

脳腫瘍のため顔もゆがみ、口元もひきつっているため

時々 聞き取りにくいこともあるが 話は自由にできられる

 

現在はご主人と二人暮らしで、ご主人がすべての介護を担っておられる

 

彼女はアメリカ海兵隊でキャリアウーマンとして退職まで仕事をされた

軍の司令でご主人と世界の数か所に移動されたこともあり、

知識も見識も豊富な女性

 

彼女が60歳を過ぎたころ、乳癌を肺癌を患い手術を受けることになった

 

信仰深いクリスチャンである彼女は、

癌も何かの意味があって、自分に神から与えられたものと信じ

『癌を受け入れる』と決められた

 

「手術前に、ドクターからたくさんの資料をもらって

 癌について勉強していたんだけど、

 どれもこれも 癌について否定的なことばかりしか書いていなかったのよ

 『癌は神様からいただいたものなのだから、私は癌を愛そう』

 そう決めて、資料は最初だけ読んで、全部捨ててしまったわ」

 

幸い、癌の摘出手術は成功し、Nさんの体から取り除かれた

 

ところが、その数年後に今度は脳腫瘍にかかったことが分かったのだった

 

医者たちは、乳癌の転移だと予測し、悪性の脳腫瘍だろうと予測を付けた

ところが、Nさんは 乳癌・肺癌の手術の後、神様から声が聞こえて

『あなたは、これから決して癌に苦しむことはない』と言われたという

 

それで 脳腫瘍が悪性の癌に変わると予想する医師たちに、

「私の脳腫瘍は、決して悪性にはなりません」と最初から言い続けて

現在も医師たちの予測に反して、悪性脳腫瘍ではない状態だ

 

Nさんは ほとんどの自由を奪った脳腫瘍さえも、

神からのプレゼントだとして、受け入れ、愛しているのだと言われる

 

「不思議でしょう。脳腫瘍を愛するなんて。

 でも、本当なのよ。理屈ではなくて。

 だから、脳腫瘍のことや、不自由になったことで 

 今まで、文句を言ったことがないのよ」

 

ホスピスチャプレンとして、これまで多くの患者さんのケアに

あたらせていただいてきたけれど、このような話ははじめてだ

 

チャプレンとして、掘り下げていろいろ聴かせていただけるのは感謝なことだ

それで、突っ込んだ質問をさせていただいた

 

「なぜ、神様は、あなたに癌や脳腫瘍という命に関わる重い病気を

 与えられたんだと思いますか? 神様の目的はいったい何なのでしょう?」

 

すると彼女は

「私からコントロールを奪う目的だと思うわ

 私は人生ずっと、なんでもコントロールしてきたの

 だから、私からコントロールを取り去ることで、

 もっと神様に従うこと、頼ること、任せることを

 学ばせようとされているのだと思う」

 

「でも、まだまだいろんな意味で、自分をコントロールできているから

 神様はこれからも もっともっと私から自由を奪われると思うわ」

「それは、つらいことではなくて、楽しみなこととも感じているの」

 

Nさんは 静かにそう語られると目を閉じて 祈っておられる様子だった

そして、私たちは心を合わせて 神様に祈りをささげて訪問を終えた

 

週1回のNさんの訪問、

死に直面するNさんの心の思い、死生観、信仰の話を聞かせていただけるのは

特別な思いがする