チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

ボランティアのRさん



毎週火曜日の朝は「賛美歌を歌う会」が1時間ある
ホームに住む方々のための霊的なリクリエーションの一つだ

毎回クリスチャンの患者さんたちが15~20人ほど参加されている

その歌の会をリードするチームは すべてボランティアの面々
女性が4人と男性1人

リーダーのIさんを筆頭に 皆さん数年以上このボランティアをされている
全員80代でおられる
患者さんたちと同じ年代のボランティアなのだ

ピアニストのHさんは リクエストに合わせて バンバンなんでもこなす
他のボランティアは 本のページを患者さんのためにめくったり
本をもてない人のサポートをされる

賛美歌を歌うのは 声を出すことで元気がでるし
歌詞をたどって歌うことで 老化防止にもなる
そして 何よりも歌詞によって こころの励ましを受けることができる~!
なんともすばらしい霊的アクティビティー

チャプレンは すべての霊的なアクティヴィティーの責任者であり
ボランティアのコーディネイトもしている



さて、この中で黒一点の男性ボランティアのロバートさんは85歳

3週間ほど前、賛美の会が始まる前に私の前に立たれると、
「どうですか? この格好ならいいですか?」と突然言われた
少し怒っておられるようにも見える

わけの分からない私は、 は? と 何のことを言われているのかわからない

よくみると、いつもはジーンズに格子柄のフランネルシャツとラフな格好の彼が
今日はカーキ色のズボンに白のシャツ その上からスポーツジャケットだ

とっさに、
「今日は ちょっとよそ行きのようで 似合っていますよ」とほめ言葉を言った

するとロバートさんは
「この施設でボランティアをするのに いつもの格好じゃだめだと言ったのは
 あんたじゃないのかね?」 と言われる

私「は? いつもあなたの格好でどこも悪いところなどないと思ってますが、
   誰かから 服装のことで指摘を受けたのですか?」

ロ「ふ~ん、てっきりあんたとばかり思っていたよ」

私「よくわからないので 説明してもらえませんか?」

すると、ロバートさんは 目に涙をためて言い始められた
 「誰かはよく分からないけど、ここで奉仕をするなら 
  もっとちゃんとした服を着て来いと 注意が入ったと仲間から言われたんだ」

 「今はもう服のことで あれにした方がいいとかチェックを入れてくれる妻も
  いないし、服のことなんてかまわないでいた。
  妻は4年前に亡くなって・・・。
  でも、僕はここに来たいんだ。
  ここに来るのが、生きがいなんだ。
  だから、今日は一生懸命いい服を着て来たんだよ。」

私「服のことを指摘されたことで とても嫌な思いをされたのが伝わってきますが、  
  どうやって嫌な思いを克服して どんな気持ちで今日来られたのですか?」

すると、一生懸命搾り出すように

 「腹がたったよ。でもね、腹を立ててやめるか、それとも 怒りを抑えて
  自分が折れるか天秤にかけたんだ。どっちが大事かって。
  僕にはここに来ることのほうが大事だから 折れて合わせることにしたのさ。」

私「服のことは誰が指摘したのかは分かりませんが、私ではないです。
  ボランティアの服装に何らかの規定があるか調べてみますけど、
  いつものジーンズ姿のロバートさん素敵だと思いますよ。
  あまり、服装のことは気になさらないでくださいね。」

ロ「そうか、あんたじゃなかったのか。 ありがとう。」

その日は そんな会話をして 賛美の会が始まり、終わったかと思うと
急がれていたのか、すぐにロバートさんは帰られてしまいそれ以上会話できなかった



次の週、気になっていたので、ロバートさんをつかまえて
「奥さんが亡くなられてというところで 涙ぐまれていたようなので、
 私でよければ グリーフカウンセリングの面でサポートできますが
 会の後、お時間ありませすか?」 とアプローチしてみた。

ロバートさんは、
「え? 僕のために時間とってくれるの?」と喜んでくださった

賛美の会が終わった後、話を聞かせていただいた

ロバートさんの最愛の奥さんは 4年半前にガンで亡くなられ、
それ以来 彼は毎朝毎晩奥さんのことを思い出しては 涙を流しているのだという。

60年間も夫婦として生きてきたのに、突然一人になり、とてもさびしい
幸い奥さんが賛美歌が大好きで歌声をテープに入れていたため
娘がそれをCDに録音してくれたのを 毎日聞いて幸せな気持ちになると同時に
寂しさに襲われるのだという

奥さんが賛美歌が大好きだったから 
ロバートさんはこの施設の賛美の会のボランティア活動が大事に思えるのだそう


話を聞き終えて、
4年半悲しみが止まらないと 涙を流されるロバートさんだが、
毎日の生活に支障が出るとか、日常生活が送れないというものではないし、
毎朝 3マイル(5キロ)マラソンをされているというし、
それほど 心配するほどではないように聞こえた

私「奥さんの思い出や 悲しい気持ちを話せる人はいるんですか?」と聞くと

ロ「たいていは 『いつまでも泣いてちゃだめだ。』
 『できるだけ 前向きに生きないと』 っていさめられるから、いない。」

私「私なら どうですか? 奥さんの写真とか見せて思い出を話してください。
  いつだって お話聞きますわ。」

ロ「本当に聞いてくれるのかい? 
  いや、今聞いてもらえただけでも すごくうれしかったよ。」

時々、ラフな感じで話をしましょうと その日は別れた。

帰りがけに、他のスタッフに
「今日はね、リア(私は英語名はリアで通っている)が
 時間をとって話を聞いてくれたんだ。」
うれしそうに語られる姿が見えて、こちらも嬉しかった

ボランティアの心のケアーも もっと綿密にしなければと教えられた 



ちなみに、この施設でのボランティアの服装の規定は

 ぞうりは禁止 (脱げて足に怪我をする危険から)
 女性の胸元が大きく開いた服は禁止
 短パンは禁止

清潔であれば Tシャツにジーンズで全然大丈夫とのことだ
 
  

散歩道で

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