チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

Kさん・62歳


Kさんは 62歳の男性
若い頃から心臓の持病と闘いながら生きて来られた

1年半前に 短期のリハビリで入院されたのだけれど、
思うように改善されず、ケアーが必要な状態になり、
自立生活ができるまで、歩行訓練などのリハビリをしながら
私の働く施設で生活されていた

Kさんは すごく個性的な人で
男性ながら編み物が趣味で、細かい編み込み模様のセーターを編んだり、
いわゆる”オタク”で オンライン・ゲームを楽しんだり
絶版になったコミック本の収集、歴史本の収集が 数ある趣味の一つ
独学でいろんなことを学ばれたらしく、知識も豊富だ

美食家でもあり、好きなスパイスや 取り寄せのスナックなどが
いつも配達されてきた

彼の私生活もとてもユニークで
20代のころ交際していた女性の母親と親しくなり、のちに結婚
奥さんと、自分の年の差がなんと30歳ちかくあった

その奥さんは、Kさんの状態がなかなか良くならないのを見て、
夫の世話どころか、自分の方が介護を受ける必要があるというので
夫を残して、東海岸に住む娘のもとに引っ越してしまわれた

Kさんは、私が部屋を尋ねると、いつも子供のように泣いて
「ルイーズ(妻)は、いつ見舞いに来てくれるかわからない」
「もう2度と会えないかもしれないなんて、いやだぁ」と言われた

そうかと思えば、すぐに話を変えて 笑顔で好きな歴史の話をしたり、
時々はお洒落をして、介護タクシーを使ってレストランに行ったり。

信心は特になく、無神論者で、
私に「僕の困っている話を聞いてくれるのはありがたいけど
お祈りなんて、時間の無駄なんだから止めた方がいいよ」など
痛みや精神的な苦痛に苦しむ彼の話を聞く私に言っていた

でも、いつも会話の最後には 目を見て
「今日は、部屋にきて話を聞いてくれてありがとう」と
感謝の気持ちを表しておられた

もし、自力で生活できるようになれば、福祉でアパートを借りて
そうすればルイーズも戻ってきてくれるかもしれないと 希望をもって
リハビリに励んでおられたけれど、
時々は 落ち込んで、「死にたくないよ~!」と泣きじゃくる
かと思えば、隣の部屋のテレビがうるさいと、車いすで乗り込んで
「うるさくて、神経が磨り減る! 
 今度ボリュームを上げたら、殺してやる!」などと怒鳴りこみ 
感情の起伏が激しい

看護士、セラピスト、ソーシャル・ワーカー、チャプレン
すべての人を巻き込んだKさんが 4月の始めに体調を壊し緊急で病院に搬送された

これまでも肺炎をこじらせたりして そういうことが何度かあったため
そのうち様態が回復して戻られるのだろうと思っていたら
1週間の入院後、亡くなられたと連絡が入った

その知らせを聞いて、多くのスタッフが落ち込んだ
すごく手間のかかる駄々っ子のようなKさんだったけど、
みなが 早く良くなって、日常生活を取り戻せることを願っていたのだ

Kさんが亡くなって かれこれ3週間経つけれど
Kさんが亡くなったことが信じられないと漏らすスタッフも少なくない

先日Kさんを偲んで キャンドルライト・メモリアルを開いて
共にKさんのことを話し、思い出を分かち合い、涙を流した

インパクトのある患者さんが亡くなった後の 心のケアーも
チャプレンの仕事のうちの一つだ



先日遭遇したエルクの群れ

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