神のミラクルがほしい
アフリカの某国から延命治療を求めてシアトルに滞在していた23歳の女性Mさん
13歳のころからめずらしいガンに侵され闘病していた
この10年間、普通の少女らしい生活もできずに
最新の医療を受けるため、シアトルにいる親せきを頼って借家に住んでいた
外国に来て 慣れない環境の中での闘病、本当に辛いものだったろう
あまり笑顔も見せてはくれなかったけれど、
(お国それぞれの習慣で 彼女の国では笑顔がそれほど見せないのかも)
私が訪問すると「あなたのことが好きよ。さみしいから帰らないで」とせがまれる
母国ではいつも家族や親せきに囲まれているのが 安心だったという
ホスピスのチームメンバーがケアに行くと、帰らないように、もっと長い間いてくれるようにと頼むのだった
小さい頃から母国ではモスクに通い イスラム信徒として熱い信仰生活を送っていた
「ねえ、なぜあなたはキリスト教信者なの?
イスラム教を信じてよ。 真実は一つなんだから。
神様は素晴らしいお方だよ。
あなたのことが好きだから、あなたにはアラーを信じてほしい」
訪問するたびに、彼女は熱心にイスラム教を薦めた
そして、日本の数珠(じゅず)やカトリックのロザリオにも似たビーズの鎖をもって
熱心に祈る
「神様、あなたのミラクル(奇跡)をお願いします。癒してください。」と
何度も何度も。
あの細り弱った体のどこにそのような体力があるのだろうと思うほどに、
彼女は祈り続けるのだった
チャプレンは患者本人の信仰やスピリチュアリティーを尊重しサポートする。
Mさんのために、近隣の町にある大きなモスクのイマム(イスラム教の教職者)に連絡をとり、イスラム教徒ならではの 霊的ケアをお願いする。
信仰深いMさんだったが、
スマートフォンを使いこなし、常にアフリカの友達と交信して
心ここにあらずの時もあった
屈託のない若い女性ならではの面も見せてくれ、万国共通の若者の姿があった
熱心な祈りもむなしく、彼女はひっそり亡くなった
ホスピスのケアを受け始めて4か月の出来事だった
部屋に入ってから帰るまで
ずっと私の手をつかんで離さなかったMさん
母国のご両親に看取られることもなく 23歳の若さで亡くなられた
彼女の滞在していた家の近くを通るたびに 彼女との会話を思い出す