チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

ザッカリー

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私が託児所で担当していた幼児の中に、ザッカリーという赤毛の男の子がいた。
ザッカリーは孤独な問題児。
友達と一緒に遊ぶことができず、おもちゃを奪い取ったり、友達を突き飛ばしたり問題行動を起こしていた。
お兄ちゃんのジョンくん(5歳)も お絵かきの時に クラスメイトの頭を鉛筆で突いたり、尋常ではない。

兄弟とも、問題を起こしては、罰としてよくコーナーに立たされていた。

彼らの母親は、未婚の母。 ザッカリーも ジョンも父親が違っていた。

彼女はワシントン州の福祉金で生活していた。
その上、自立を目指し教育を受けたい人のための大学奨学金を受けて、無料でカレッジに行き、
子供のために託児所の費用も全額 支給されていた。

ザッカリーとジョンは、きちんとした家庭生活を過ごしていない様子で、
託児所がオープンする朝6時には、母親に連れてこられ、閉園の夕方6時ギリギリまで預けられていた。

お風呂やシャワーにも入れてもらっていないらしく、いつも汚れかえっていて臭い。
おむつをつけている子供が、清潔にしてもらえないと、そのにおいは、大変だ!
時には、託児所で体を拭いてあげたり、シャワーに入れてあげなければならなかった。

再三、注意を受けても、 母親は子供たちの世話をきちんとしない。
園に迎えにきても、スタッフへの挨拶もなければ、子供たちを大きな声でどなりつけ、
「ぐずぐずするな」と小突く。

それだけでなく、朝6時に子供たちを連れて来るときには、車の中に男性がおり、
いかにも、昨晩からその男性と時間を過ごし、これからまたデートに出かけるといういちゃいちゃぶり。

遊んでいる感じで、学校に行っている様子はない。

彼女は知れば知るほど、母親としての役目を軽視し、女として好きなことをしているように見える。

ある時、ジョンが他の子供に乱暴をしたことで、相手の親と問題になった。

ところが、母親が行っているはずの大学に連絡をしたが、連絡がつかなかった。
以前から 母親の行動を懸念していた託児所の園長が、迎えに来た母親に注意をした。
「大学に電話をしても 連絡がつかないとは、どういうことか。
 母親として、育児を改善しなければ、黙っていることはできない。」と。

母親は、その場をとりつくろい、これからは注意するから、当局だけには連絡しないようにと頼んだ。

園長は、「今回は警告だけにするが、次回は児童福祉課に連絡をせざるを得ない。」ときつく話した。

さて、しばらくして、今度はザッカリーが保育中に高熱を出した。
朝から、だるそうにして泣いていたが、熱を測るとかなりの熱がある。風邪でも引いたのだろう。

ところが、大学に連絡しても母親は、またもや授業を受けていない。遊びまわっているのだ。

彼女は、その日も やはり閉園ギリギリに、子供を迎えに来た。

次の日、園長は児童福祉課に連絡し、警察の協力を得て、子供たちを保護することになった。
親から引き離して、ふさわしい環境で彼らを育ててもらうためだ。

ところが、ザッカリーも、ジョンも それ以来 2度と託児所には戻ってこなかった。

「金づるである子供を取りあげられては大変だ」と母親は子供を連れて逃げてしまったのだろうと言うことだ。

ワシントン州にいる限り足がつくので、きっとワシントン州警察の手の出せない、
他の州へ逃げたのだろうとスタッフたちは話していた。

今でこそ、日本でも児童虐待などのニュースがよく報道されているが、
当時、日本からやってきたばかりの私にとって、ザッカリーのことは非常にショックだった。
昨日までかわいがって一緒に遊んでいたのに、ポッカリ穴が開いてしまったようにさびしかった。

今頃、ザッカリーは24、25歳になっていることだろう。

どこで、どんな大人になっているのだろう。