チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

異文化


先日の当直の夜、病棟で心肺停止の緊急コールが入った。

チャプレンも 緊急コールのチームの一員となっていて、ページャーに連絡が来る。

いつになっても ぺジャーがピピーっとなると、特に夜は ドキッとくるものだ。

駆けつけてみると、入院患者さんが突然心肺停止状態となり、チームが必死の救命中。

患者さんの母親と見られるお年寄りと、患者さんの兄弟姉妹と見られる方々が数名、

病室から出された状態で、廊下で 半パニック状態となって泣き崩れておられた、


幸いにも、患者さんの状態は 危機から脱し、ICUへと移動されることに・・・・

「ご家族は 別のエレベーターで向かって、ICUの待合室で待っていてください。

患者さんが安定し次第、部屋に案内しますので。」 

ハンサムな中国系のハウス・ドクター (その夜の総責任ドクター)がテキパキと説明された。

(どこぞの 俳優さん? という感じ)


さて、ここからが 異文化体験の始まり。

ご家族は イランからの移民で 言葉はファルシ語(イラン公用語のペルシャ語)。

宗教はユダヤ教。


(この病院に勤務するようになって知ったことだけど、

1980年代に 宗教弾圧から逃れるためにアメリカにイランから移住してきたイラン人がかなりいる様子。

これまでに何人かの患者さんから その話を聞いて、自分の無知さを知らされた。)


待合室に案内すると、みんな取り乱しておられるので、

『このときこそ 祈るときではありませんか?  みんなで○○さんのために祈りましょう。』と 私が切り出した。

すると、それぞれに 胸や ひざをバンバンたたいて、大声で祈りだした、というか 叫び出されたのだ。

ファルシ語なので、祈りの内容はわからないが、天を仰いで両手を挙げて、

それはそれは大きな声で、夜中の11時の病院に 彼らの叫びは 響いた。


しばらくすると、親戚の中で 霊的なリーダーとされている老年の男性が 祈祷書を手にやってこられた。

ユダヤ教徒がかぶる独特のヤマカを頭に載せて、タルムードを 歌うように読まれる。

しばらく読まれた後、他の男性へと祈祷書と ヤマカを渡された。

渡された男性がまた祈り、、、、、と リレーのように祈りをささげる。


まだ患者さんが どうなっているのか わからないという緊張感が次第にとけていって、

不安な中にも落ち着いた雰囲気が漂ってきた。


『皆さんの祈りは 神様だけでなく、きっと○○さんにも 届きましたよ』

『もう少し、忍耐して待ちましょう』


チャプレンは 状況を把握して、最善のサポートをするのが大きな仕事。

その後は、ICUのドクターから 患者さんの状況を細かく聞いて、家族に伝える。

家族が対面を許されるまでに3時間はかかった。


中東の民族がら、悲しみの表現は かなり大胆で 西洋のものとは違っているとは聞いていたが、

はじめてその輪の中に入って、それがどんなものなのか 少し肌で感じられることができた体験だった。

こういうことは、読んだり勉強したりするより、体験しないとわかりづらいものだ。


幸い、患者さんは 一命を取りとめ安定した状態を保っておられる。