チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

Sさんのこと

Sさんは 若干53歳の白人男性
骨のガンが数年前に見つかり、さまざまな治療を受けるも
体中に転移し、半年前にこれ以上の治療法はないと医者から言われ、
在宅ホスピスのケアを受けられている

軍人上がりで、空軍に属し、特殊部隊で南米に派遣されていた
その当時の体験が どのようなものだったかは
「トム・クルーズ主演の ”Made in America"という映画を見れば
だいたいの想像はつくよ」と 話してくれた (まだ見れていないのだけど)

アメリカ政府には騙された、期待を完全に裏切られたと言っておられる

軍をやめてからは 経済界で活躍。
現在3年間は病気のため無職だが、経済的な心配はないと言う。

Sさんは自分の教会の牧師のほか、教会員の友達も多く、
その他仕事関係の友達など多くの訪問者からの心理的サポートや
祈りによって支えられている

それでも1週間に一度はチャプレンに来てほしいと言われ
毎週水曜日の朝は Sさんの訪問をしている

彼の毎日は がんの痛みとの戦いにのみならず、
霊的な苦悩に満ちている

ここに至るまでに、これまでの生き方、考え方を含め、
霊的な面においても さまざまなことを通して
神と語らい、対話し、格闘し、悔い改め、降参しながらも 
奇跡の癒しを求めて 日々闘っておられる

Sさんは ある日は奇跡への希望に明るい声で話され、
ある日は、神は僕にこれ以上何を求めているんだ! と怒り
ある日は、もうこれ以上自分にできることはないとあきらめ、
ある日は、自分は闘病を通して神の望まれている人間になれたと感謝し・・・
ありとあらゆる感情に満ちていて、素直に表現される

その一方で、
骨髄のガンの痛みはますます増し、
右目のまぶたの内側にできたガンは
ピンポン玉より大きくなり、脳に向かって進行しているし、
フットボール大のガンが痩せこけた腹部の中で大きくなり続けているのが
毛布の上から見ていてもわかる

つい最近はかろうじて自力で行けていたトイレにも行けなくなり
ベッドから一歩も離れることができなくなった

でも、頭脳はいつも鮮明で、病状についてもすべて把握しておられる

まったく背景の違う私たちには共通点がほとんどない
でも、Sさんは はじめっから
「日本出身のチャプレン? すばらしい!
 きっとあなたには アメリカ人チャプレンにはない感性で
 僕のことを支えてくれるはず」と私を歓迎された

「リア、あなたがきて僕の話を聞いて 質問をされるたびに、
 神からの新しい気付きが与えられる」
「ほかの訪問者は自分の意見ばかり述べて、会話としてはおもしろいけど
 最後には疲れだけが残って つらいんだ
 あなたは 神の耳をもったチャプレンだね
 毎週訪問してくれて 本当に心から感謝しているよ」

最近は、
「自分の家族のためにも、ガン患者の励みとなるためにも
 信仰を貫いて癒されることだけを求めているけれど、
 自分のことだけを考えると
 ここまで 神がガンの進行を止めてくださらないのなら、
 もう闘うのはやめて、天国にいってしまおうかなとも思う」

「もう自分でやれることだけはやった
 ガンをと通して霊的にすごく祝福されたし
 自分では最高のレベルに達せたと満足している
 なるべくして神から生まれさせてもらった自分になれたんだ
 だから、もう思い残すことはない」

若くして末期がんと闘うSさんの口からは
生に対する希望と、死への準備が共存した言葉が語られる

神は これ以上Sさんに 何を求めておられるのだろう
どんなに祈り求めても 奇跡は起きないものなのか・・・

Sさんの命の権威をつかさどっておられる神が
これからどのようにSさんを導かれるのか
その過酷な歩みをこれからもサポートさせていただきたいと思う