苦しみの後に残るもの・・・
「あなたの赤ちゃんは、治る見込みはありません。」
若い両親は 医者にそう告げられ、「まさか、、、信じられません」と 耳を疑った。
双子で生まれたばかりの女の子。
未熟児だったために 入院していたが、生後3日目に異常が発覚。
大腸が 発達しきれずに、あちこちに穴が開いたままの状態で、
与えたミルクが穴から漏れ、腹部で腐ってその毒素で 危篤の状態になった。
急遽、腸を切り取り、胃から切り離す処置がなされた。
こうして赤ちゃんの命は取り留められたが、過酷な毎日がはじまった。
来る日も来る日も、若い母親は 一日中 ICUのベッドの横に座り、祈り心で赤ちゃんに話しかけている。
神を信じるというその母親は、「神様が奇跡を起こしてくださると信じる」と言って
気丈に振る舞い、笑顔さえみせて私と話をされていた。
助かる見込みはないとは 告知されていても、
体温のあるわが子が がんばっているのだから、あきらめるわけにはいかないと。
1週間ほどたったころ、母親の気持ちが少し変わっていたのに気がついた。
これまでの自分の人生で 反省すべきことを思い出しては 神に赦しをこって
これから気持ちを入れ替えて 生きますから 何とか娘を助けてほしいと 祈っているという。
バーゲニングといわれる心理状態だ。
○○を約束するから、希望をかなえてほしいと、神と取引きをする。
それでも状況は変わらず、毎日赤ちゃんは いつ亡くなるかわからない状態が続いた。
もし心肺停止になった場合、人口呼吸をするのか、電気を流して心臓を動かすのかなど
医師と詳細の方針を取り決めたころから、また、彼女が少し変わってきた。
死を恐れながらも、現実の可能性として受け入れるような 言葉が聴かれるように・・・
「双子として生まれたのだから、双子として仲良く育てたい。どんな障害があってもいい。
ただ生き残ってさえくれればと、一日中神様に祈っているの」
赤ちゃんがICUに入院してきてから 1ヶ月が経った。
人前では 決して泣くことができないと言っていた彼女が、
「もうこれ以上耐えられない。」とポロポロと涙を流して、現実の大変さをなげいた。
その2日後、赤ちゃんは静かに息を引き取った。
チャプレンとして毎日のように 彼女を支えてきたが、
赤ちゃんが亡くなる少し前ごろから、私の中に蓄積されたストレスが 体調に現れはじめ、
赤ちゃんが 亡くなった途端、精神的な疲れにどっと襲われた。
苦しみを支えるというのは、本当にこちらもつらい。
愛する者が亡くなった後も、心の傷跡を抱えながらも豊かな人生がありえるということを
彼女が実感としてわかるときが来るまでには、時間がかかることだろう。