チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

Jさんの闘病

Jさんは 87歳の白人男性
とても紳士で物腰のやさしい方だ

Jさんと奥さんは結婚して約60年
お子さんのいないこのご夫婦は
二人とも自分の仕事を持ち、忙しく充実した人生をすごされてきた

広大な庭のある大きな家に住み
老後といえども、それぞれに自営業で自分たちのペースで
仕事を継続されていた

Jさんは業界では知る人ぞ知るシャクナゲの専門園芸家で
1000種類以上の品種改良をされ、
そのうち新種として250種が登録されたのだという (たったの?!)
講演者としても世界のあちこちで活躍されたらしい

奥さんは図書学の修士号を取り、シアトルの有名大学の司書長として
長年勤められたが、趣味のソーイング(縫物)に入れ込みすぎ、
転職してソーイングのインストラクターとして
いろんなところで教室を開かれていた

そんな奥さんが MSいわゆる多発性硬化症になられ
夫のJさんが介護をになわれた

そのため大きな庭でのシャクナゲの栽培や手入れも
できなくなってしまい、
泣く泣く家を売り、終の棲家として 1年前に老人施設に入られた

ところがある日、夫のJさんが痙攣の発作を起こし病院に運ばれた際、
末期の肺がんが見つかり、ホスピスケアが必要となったのだ

一転、妻よりもJさんの方が介護を必要とすることになってしまい
夫婦の計画は完全にくるってしまった

Jさんは同施設内の病棟へ、
奥さんは同施設内の、ワンルーム、ケアアパートへ・・・
仲の良かった二人はあえなく、別居を強いられることに・・・

Jさんは日々病状が悪化し、弱っていく
「シャクナゲのことは、そんなことも楽しんでいたなと思うが
 僕の人生にとって、それほど大事なことではなかったと思う
 もう、自力では歩くことさえできなくなって、
 ほとんどのことに興味がなくなった
 
 肺ガンが見つかった時は、2週間の命と言われて
 ショックだったが そうなるのだろうと受け入れていた

 ところが、あれから4か月経つけれど
 確かに弱ってはいるが、すぐに死ぬということでもないようで
 『生きていれるのだから感謝しろ』と言われるのだけど
 何の意味も感じないこの命を継続するのは うつろすぎる・・・

 こうやって、病棟の隅の部屋に押し込められて
 一人で一日テレビを見ているだけなんだ
 感謝しろと言われてもねえ」

何もできなくなった今の現実に、生きる意味を感じないと
私の前で 正直に気持ちをプロセスされる

奥さんが、「あなたは素晴らしい業績を残したのよ」と言っても
彼にとっては 自分の業績なんか何の意味も感じられない
ただの過去の出来事として 遠のいてしまったようだ

彼にとって大事なのは、今現在の気持ち、充実感だけだ
それが失われてしまった以上、意味を感じない

Jさんの言葉は、多くの人々の最期を代表されている

毎日テレビを見ながら、死ぬのを待っているJさん

私が毎週訪問すると、笑顔を見せてくださり
孤独な時間を共に過ごしてくれて、ありがとうと礼を言われる

そして、ぽつりぽつりと
彼の生きてこられた人生について、人生観について
とてもおもしろい話をされる

最期まで、Jさんと奥さんのケアに携われることを
幸いに思っている