チャプレンのブログ・ALSなんか大嫌い

アメリカでチャプレンとして働いています

隠された信仰

今日、新しくホスピスケア―を受けられることになった
患者さんのJさんとその奥さんのお宅を訪問させていただいた。

Jさんは90歳の白人男性でアルツハイマーの末期と診断された
奥さんと老人用アパートに住まわれている

所せましと様々な思い出の品々を飾った小さなアパート
たくさんある写真には、Jさんの若かりし頃
満面の笑顔で 多くの家族や友人に囲まれての写真
とても幸せそうなお姿だ

Jさんは 最近になって昼夜が逆転してしまい
昼間はソファーで 居眠りばかりして
夜になると、目が覚め、何やらずっと話しているという

そのため、今日、私が訪問した際も、奥さんと話している最中
ずっと横で居眠りをされていた

奥さんが、Jさんの人生について背景を教えてくださった

Jさんは 熱心なカトリック教徒の家族に生まれ育ち、
高校卒業後に軍に入隊し、朝鮮戦争に送られた

帰還後、かねてから神父になりたいとの志をもって
イエズス会の神学校で 12年間のきびしい教育と訓練を受けられた

晴れて神父となったJさんは ワシントンDCの教会の神父として赴任
懸命に神と人に使える毎日を過ごされた 

1960年代のこと
そのころアメリカでは避妊薬が開発され
家族計画の一部として 使用されるようになってきていた

当時のローマ教皇は、カトリック教会として
避妊薬の使用は否定すべきとして、
信徒らに教育するようにとの指令が全教会の神父らにくだった

ところが、多くの神父たちがその指令に反対し、
避妊薬の使用に賛同したのだという

カトリック教会は 教皇の指令に従わない神父たちを解雇

Jさんは 長年かけて やっと神父になれたというのに、
たったの2年で神父としての立場を失われた

その後、Jさんは ソーシャルワーカーの資格を取得し、
長年人々のために働かれたという


当時、同じ地域に住んで、カトリック教会で
いろいろなボランティア活動をしていた奥さんは、
そんなJさんと知り合い、4-5年友達として付き合ったのちに結婚された

Jさんは 神父職を解雇されて以来、一度も教会に行かなかったし、
キリスト教や神、信仰についての話も 
夫婦の間でも全く話されなかったという

相当苦しい思いをされたのだろうと察するが、
アルツハイマーになってしまわれた以上、
どこまでそのことを表現できられるのかは 不明だ

奥さんがおっしゃるには、最近になって
彼女が夜中に気が付くと Jさんがベッドに座って、
なにやらずっと神に話しかけておられるらしい

「これは チャプレンに来てもらって助けてもらわないと」
と思ったのだそう

長年心の中に封じ込めてきた神への感情や信仰が
今になって 心の底から出てきたのだろう

もし、Jさんが自由に自分の心の内を話すことができるなら
どんなことを話されるのだろうか

怒りと後悔?
それとも、感謝?

これからどんなお話が聞かせていただけるのだろうか