少年マットとギズモ
山の上の家に引っ越したとき、たくさん教会の日系人の方々が手伝いに来てくださった。
その中にまぎれて、見たことの無い小柄な白人の12,3歳の少年がいて、一緒に昼ごはんを食べたりしていた。
てっきり、日系人の親戚で一緒に手伝いに来てくれているものとばかり思っていた。
ところが、彼は斜め下の土地に住むマット君だとわかった。
彼は日本人が珍しかったらしく、それからしょっちゅう家に遊びに来るようになった。
彼はいつも子分のギズモを連れている。
ギズモは黒くて汚れた小型の雑種犬で、受け口で下の歯が見えており、イカツイ顔。
でも、性格はいたっておとなしいかわいいヤツだ。
ギズモは自分の「獣道(けものみち)」を持っており、自宅から近所の敷地内を自由に散歩できるルートが
決まっているらしく、草が倒れて、「ギズモ道」が うちの敷地内にも横切っていた。
これは実際のギズモではないが、そっくりなので、載せてみた。
マットは、よくギズモをつれて「ハーイ!」と学校帰りにやって来て、父がガレージで道具を触っていたりすると
一緒になにやらコミュニケーションをしながら、過ごしていた。
父が子供好きなこともあって、けっこうマットといい友達になった様子。
人間は言葉ができなくても、言葉を超えたコミュニケーションがあるものだ。
父とマットは、そんな不思議な関係だった。
ある時、母が、「マット、好きな食べ物は何?」と聞くと、「日本のラーメン」と言うではないか。
母は喜んで、「じゃ、今度マットのために スペシャルなラーメンを作ってあげるね!」と言った。
さて、マットの誕生日にマットが遊びに来たので、母は当時は貴重品だった即席ラーメンに
野菜をタップリ入れて、おいしくスペシャルに味付けをして作った。
一口食べたマットは「どう? おいしい?」と聞かれて、
「まあ、オッケーかな。いつも食べてるカップヌードルの方がおいしいよ。あれはベストだ!」と言った。
母は、「もう! あんなのは本物のラーメンじゃないのに、こっちの方がずっとおいしいのにー!」と
非常に驚き、残念がっていた。
アメリカ人は、正直でよろしい。
マットは、きっと今頃は30代の青年になっているのだろう・・・。